ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
10.5.2006
「発酵」をテーマにする日本酒の蔵元発の注目業態

東京・二子玉川にある玉川高島屋SCの地階、食料品ゾーンに「サケ・ショップ福光屋」なる店がある。金沢で永い歴史を持つ酒蔵、福光屋によるものである。今年の夏、この店で、来館者の興味をそそり、話題になる商品が打ち出された。「酒粕のソフトクリーム」である。ソフトクリームに酒粕。味覚をイメージしにくい取り合わせであるが、これがさっぱりとしたミルクの風味で、想像を超えた発見を楽しませてくれる。ちなみに福光屋はサケ・ショップを銀座にも出しているのだが、こちらのほうでは「仕込み水『百年水』のかき氷」を打ち出している。仕込み水は銘酒の原点とされ、福光屋の「百年水」は地下150mの地中から湧き出したもので、まろやかで、しなやかな味が特色と言う。「かき氷」はその百年水で作った氷によるものである。

ソフトクリームやかき氷に感じるように、この店はサケ・ショップという言葉では表現しきれない性格と内容を持つ。そもそも店舗デザインがシンプリシティを極めたモダンなもので、その雰囲気から日本酒を連想することはできない。このことに象徴されるように、日本酒を超えた、広がりのある商品提案を行う、物販・飲食複合型業態であるところに特色がある。勿論、積極的な試飲サービスによる日本酒販売は重要な商売であるが、それはこの店とのつき合いのひとつでしかない。

福光屋サケ・ショップ玉川店。左側にテーブル席を配したカフェゾーンがあり、ここではテイスティングセット(酒肴付き1,000円)など日本酒を中心にする飲み物と様々な酒肴、そしてスウィーツメニューを楽しめる。

サケ・ショップでは実に様々なカテゴリーの商品が展開されている。食料品では自家製の酒粕、味醂、赤酢を使用したスウィーツをはじめ、平ふぐの粕漬け・糠漬け、ふぐの子糠漬け、うに豆といった酒肴があり、日本酒に必須の錫の酒器などのテーブルウエアや雑貨などもある。そんななか、広がりのある商品提案ということで驚かされるのが自家製のビューティー製品を打ち出していることだ。ハーブを米発酵液で抽出した「フレナバ」ライン(化粧水が150mlで2,800円)、米発酵液に含まれるアミノ酸を生かした「アミノリセ」ライン(美容液が50mlで8,400円)、米発酵液による「すっぴん」ライン(クレンジングリキッドが150mlで1,575円)。いずれもがクレンジング料、化粧水、美容液、石鹸といった基礎化粧品アイテムで構成され、そこに共通しているのが日本酒の蔵元ならではの米発酵液である。

基礎化粧品の展開。

酒器や雑貨はともかく、日本酒、酒肴、スウィーツ、基礎化粧品が陳列販売されている店内を一見すると、まるで脈絡のない品揃えに感じられるのだが、実はそこに「醗酵」という共通のキーワードがある。今、生活者の関心は日本の風土のなかで永い歳月をかけて育まれ、伝承されてきた素材や知恵に向いている。発酵商品を提案するサケ・ショップはこの動きを重ね合わせてみることができるのである。なお、サケ・ショップは、日本酒の蔵元の時代をとらえる新しい可能性への挑戦としても興味深い。





 

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