ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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11.2.2006
『カンバセーション・クッキー』〜独自の魅力で繁盛するクッキー専門店

アメリカでは年間一人当たり平均300個のクッキーを食べるというデータがあるが、スナックとしてデザートとしてクッキーは日常的な食べ物であり、それだけにこれを売る店は巷に溢れている。そんななか、自店で焼いたクッキーを専門にする全米でも屈指の繁盛店がマンハッタンにある。食料品をテーマに多彩なテナントで構成するSC、チェルシー・マーケットに店を構える「エレニス(Eleniユs)」である。ちなみに、この店は美味しいクッキーについての様々な調査で全米のトップクラスにランクされており、それはすべて自然な成分による材料で作られ、人工保存料などはいっさい使用していない。

しかし、美味しいだけで「エレニス」は評判になっているわけではない。形状の具象性とその様相が持つ楽しさ、面白さと、手仕上げによる、きれいで可愛いアイシング(クッキーにかける、砂糖・卵白・牛乳で作る糖衣)に評判になる重要な魅力がある。つまり、味覚と同時に視覚を楽しませるところに他にない特色がある。例えば秋になると、コウモリや猫やカボチャやオバケといったハロウィーン・モチーフのクッキーがクローズアップ訴求されるのだが、これなどはゲストを招いた際に出すスナックとしては話題のタネになる。「エレニス」が『カンバセーション・クッキー』(会話を弾ませるといった意味)と言われ評判になる所以である。

「エレニス」の店頭から。母の日を訴求する花をモチーフにするクッキー。

実際、『カンバセーション・クッキー』にふさわしく企画にはいくつもの方向性がある。動物をモチーフにするもの。果物や花をモチーフにするもの。スポーツをテーマに、例えばスポーツ用具やプロスポーツチームのロゴをモチーフにするもの。ファッションをテーマに、例えばドレス、靴、バッグなどをモチーフにするもの。誕生日をテーマに、リボンで結んだギフトボックスやバースデイケーキをモチーフにするもの。出産をテーマに、可愛いアヒルや乳母車をモチーフにするもの。ウエディングをテーマに、花婿・花嫁をモチーフにするもの。そしてこれらに加えて、ハロウィーン、次はサンクスギビングデイといったぐあいに、歳時と連動し、それぞれの歳時に固有のシンボルをモチーフにする企画もある。いずれもがギフトにしてよし、家庭でのもてなしで出してよし、そこに込めたメッセージが会話の促進剤になる。

日持ちが未開封で2ヶ月であること、アイシングにおける独自の工夫で溶けることがないことから、「エレニス」の商売の柱となっているのが缶入りのギフトセットである。これらは上記の方向性に沿ってセット化されており、全体で80種類に及ぶ。価格は18個入りで60ドル前後といったところ。また、クチコミによる「エレニス」の評判はセレブにも広がり、彼らが注目するものになってきている。俳優やテレビの大物タレントがこのクッキーのファンであることが知られるようになると、マンハッタンに一軒しかないローカルな家業的店が一気に全国区のブランドへと出世する。セレブの力がこの種の発展を促した例は、この数年、様々な商品分野で見られるのだが、「エレニス」もその事例のひとつになろうとしている。





 

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