ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて
1.15.2009
グッドスタイル、グッドテイスト、モデレートプライス

アメリカでバブル経済の崩壊と共に消費が低迷した80年代末から90年代初めにかけて、小売業が不振を極める状況の中で注目されたのがギャップ、JクルーをはじめとするファッションSPA(製造小売業)である。いずれもSPAの先駆者であるが、これらに共通していると感じられた基本的な方向が、紳士物・婦人物を同時展開することに加えて、商品がグッドスタイル、グッドテイスト、モデレートプライスという3つ要素で性格づけられていたことである。ちなみにそれらは、ファッションとして突出することなく適度にオシャレで、トラディショナルスタイルをベースに感じさせることでのまずまずの趣味性、こなれた買いやすい価格、と説明できる。

整理すると、感度も質も価格も「適度」ということでバランスが取れている服ということになるのであるが、それは「ちょっぴりセンスのいい、日常に密着した生活着」として生活者に語りかけ、生活者はそれを「ありそうでない服」として受け止めたのである。つまり、3要素で性格づけられた服は「ちょっとオシャレな日常生活着」ということで、ファッションに新たな需要と市場を切り拓いたのである。そしてこのファッション需要は、男女、ライフステージ、所得を超えた、まさに最大公約数的なものであることから、これらSPAをマスマーチャントへと成長させることになったのである。

グッドスタイル、グッドテイスト、モデレートプライスの3要素はいつの時代も購買意欲に働きかけていくモノを考えるうえでの手がかりになるのであるが、特に今日のような消費低迷の時代になると訴求力を持つ。そしてこの時代の状況を追い風にするように昨年、マンハッタンのソーホーに登場したのが「メイドウェル(Madewell)」という婦人カジュアルファッション店である。ここは店と同名のブランドで構成するSPAで、ジーンズを着こなしの軸に据えているところに商品構成の特色がある。鮮やかなカラーのもの、染めに変化をつけたもの、さらにはシルエットやスタイルのバリエーションも含めて、ジーンズには実に多様な選択肢があり、特にカラーを楽しんでみたいということでそそられるものがある。また、トップやインナーのアイテムも充実しており、トレンドアイテムであるスカーフに30種類を超える展開をするなど、ブーツ、バッグも含んで服飾雑貨にも魅力ある品揃えがなされている。ちなみに、「メイドウェル」はJクルー社が取り組んでいる新事業で、本格的な出店はこれからというところである。

「メイドウェル」の店内。2つのフロアで構成されるエアリーな空間が「オシャレな日常性」を印象づけるうえで効果を上げている。

ライフステージを超えて女性客を惹きつけて賑わっている「メイドウェル」で感じ取るのが、グッドスタイル、グッドテイスト、モデレートプライス(ジーンズが100ドル前後、セーターが50ドル前後)の3要素である。この店が提案するものはまさに「タイムレス・スタイルをベースにする、ちょっとオシャレな日常生活着」なのである。Jクルーも「ちょっとオシャレな日常生活着」の解答のひとつなら、こちらもまた解答になり得る。そう思えてならない。ラグジャリー志向の消費が崩壊した後に来る売れるファッションのコンセプトが「グッドスタイル、グッドテイスト、モデレートプライス」であることに着目したい。





 

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