ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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2.21.2011
『教養刺激型都市遊び』と美術館のカフェと

このところニューヨーカーの間で人気のある飲食スポットになっているのが、美術館にあるカフェやレストラン。その火付け役になったのが近代美術館である。数年前に建て替えられてオープンしたこの美術館は、展示作品もさることながら、日本人建築家の谷口吉生氏の設計によるその建物と内部環境自体も鑑賞に値する作品として評価され、今もなお入館の行列が続いている。この新・近代美術館で話題になり、人気になっているのが館内のカフェ、レストランである。ここには、パスタ料理などのイタリアンによるカフェテリア(2階)、スウィーツ、セイボリー(英国の伝統的な食後の口直しとしての辛味料理)、フルサービスカフェ(5階)、ニューヨークタイムズ紙が3ツ星を付けたレストラン、「ザ・モダーン」(1階)と、それぞれ性格の異なる3つの飲食施設がある。

なかでも、長時間待つことを覚悟しないといけないほどの人気が5階のカフェ、「テラス5」である。その魅力は、絵画と彫刻のギャラリーに面して展示作品を楽しめること、1階の彫刻の庭を見下ろせる眺めにあるのだが、同時に見逃せないのが、提供されるメニューの味覚レベルの高さ。それだけではない。このカフェの椅子、テーブル、テーブルウエアは、アルネ・ヤコブセン、ジョージ・ジェンセン、フリッツ・ハンセンといったデンマークのモダンデザインの巨匠や有名ブランドによるものなのである。味覚以外にファーニシングもまた作品なのであり、こうしてみると、「テラス5」は目と舌、同時に鑑賞を楽しめるスポットになっているのである。

「ザ・ライト」。

フランク・ロイド・ライトの設計で有名なグッゲンハイム美術館にも名所と言えるレストラン「ザ・ライト」がある。これは建物の修復工事を終えるのと同時に新たに誕生したもので、その名が示すように、伝説の建築家に敬意を表するデザインが大きな魅力になっている。空間全体、天井、床、そしてテーブルに、美術館のデザイン上の特色であるシンプリシティと曲線の融合が表現され、客に美術館の延長としてのダイニングスポットであることを強く印象づける。そして、提供される料理は、プレゼンテーションも味覚もそのデザイン精神を反映するようにモダンで洗練されている。

他にもミュージアム・オブ・アーツ&デザインの最上階にオープンしたレストラン「ロバート」も話題になっているが、美術館に導入されている魅力的なカフェやレストランに身を置いてみると、美術館で過ごすことにいっそうの価値を感じる。それはただ単に滞留装置、休息装置として意味があるというのではない。それ自体がその美術館の「作品」としての意味を持ち、鑑賞するということでの連続性を持っているのである。高い創造性を持つ味覚がデザインとして、アートとして評価されるようになってほぼ四半世紀が経つが、目で鑑賞する作品と舌で鑑賞する作品の共存と、その両方を楽しめることが美術館にこれまでにない価値をもたらしていると言えるのである。現代生活者にとってアートの空気や知のニオイに満ちた環境の中で過ごすことに大きな魅力がある。『教養刺激型都市遊び』が時間消費のテーマになってきていることに留意しておきたい。





 

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