ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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7.4.2011
「有事に備える」売場を常設展開で、しかも婦人服飾雑貨フロアで

3.11後、都心の街頭で女性を観察していて気づくのが、底のフラットな靴を履き、斜め掛けあるいは背負える、両手の空くバッグで歩く姿が増えたこと。要は歩きやすい格好をしているのだが、そこには3.11当日の「いざという時に頼れるのは足」という、徒歩が交通手段になった体験がある。一般的に非常時の体験は時間の経過と共に薄らいでいくものだが、3.11の場合、大きなものも含めて余震が長期間続くと呼びかけられていることと電力不足が生活者に依然として「有事」にあると認識させ、それが歩きやすい服装への関心とそれに応えるモノが売れ続ける要因になっている。

実際、かなりの頻度で余震は起きており、これから盛夏になれば停電の可能性も否定できない。というわけで、有事という認識が長期間続くとなれば、有事に備えることを継続的なMDテーマにする動きが出てきてもおかしくない。そしてその注目事例が西武池袋店で、ここでは「有事への備え」となるモノを集積する常設売場を新たに開発している。と聞けば、いわゆる防災グッズ売場を想像するが、この事例には興味を惹くポイントが2つある。1に、対象を女性に絞っていること。2に、その点も踏まえ、この売場を2階の婦人服飾雑貨ゾーンに配置していること。

「新・携帯用品/リミテッドエディション」。

「新・携帯用品/リミテッドエディション」と名付けられたこの売場は、面積約40u、6月1日にスタートしたものである。特色は有事に備えるモノを女性の視点と感覚で選んだところにある。例えば、軽量で携行できるモノ。ナイロン素材などの軽いショルダーバッグ、バックパック、バッグインバッグや携帯できるバレリーナシューズ(3,045円)など。女性の感覚として共感できるのが「リフレッシュ」を切り口にするモノで、エアーフレッシュナー、リフレッシュウォーターといったものが見られる。そして勿論、非常時の必需品で、緊急用ホイッスル、手動充電方式のLEDライト、保存水や簡易トイレなどの入った非常用持ち出し袋、それに備蓄食の缶入りソフトパン、プロテインバーや各種サプリメントといった食品も。

衣料については、同店のPBである「リミテッドエディション by アツロウ タヤマ」(4階婦人服フロアで売場展開)の活動的なスタイルをマネキンによるプレゼンテーションで提案。同時にウインドブレーカーなどの薄手のジャケットを販売。

売場環境は白を基調としたおしゃれなもので、「非常時の買い物」を微塵もイメージさせない。きれいな色のバッグや雑貨が並ぶ風景には女性の来店客を惹きつけるものがある。また、バレリーナシューズや缶入りソフトパンのような新しい発見もある。こうしてみると、服飾雑貨を「有事に備える」切り口でとらえるという視点もあるのだということを教えられる。それはさておき、3.11後に様々な店で緊急展開された防災対策グッズの売場がいずれも臨時展開に終わった。「有事に備える」売場が期間限定展開を超えて常設展開の可能性を持っていることに注目したい。





 

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