ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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5.8.2006
現代生活者をとらえる新しい溜り場、ニットカフェ

「ニットアウト」なるものをご存知だろうか。これはアメリカで始まったもので、公園や大通りなどに集まって屋外で手編みを楽しんだり、ニット作品を発表したりするイベントのことを指す。一方、街角のカフェに集い、編み物を楽しむことを「ニットカフェ」と言う。このニットカフェで有名なのが東京・南麻布の「マザーアース ビス」が毎月2回開催するものである。同店は山梨県小淵沢に工房を持つ草木染糸の専門店で、昨年秋に南麻布店をリニューアルした際にカフェを併設。参加者は編みかけのものを持参し、参加費は無料で飲み物は実費(クッキーつきハーブティーとオーガニックコーヒーが400円)。

「マザーアース ビス」でのニットカフェ。

同様のニットカフェは様々なところで開催されているが、その多くは手芸用品メーカーや専門店などが編み物の普及と顧客作りを意図して催すものである。スターバックスの東京のいくつかの店舗でささやかに催されているものもそのひとつで、『Coffee×Knit = Cozy スターバックスでつむぎだす暖かなひととき』と題したこのニットカフェでは、事前に申し込んだ参加者がカフェの一角に集まり、講師の指導のもと、スターバックスのカップにつけるスリーブ(熱くても持ちやすいようカップに巻きつけるもの)を作る。参加費は500円(キット代、ドリンク含む)。

趣味創作活動が志向されている時代であるが、編み物にはそれを超えて現代生活者をとらえる魅力がある。それは手を繰り返し動かすことが心を穏やかにし、様々なストレスを解消してくれるということである。加えて、手先を動かすことがボケ予防につながるという効果も期待できる。ニットカフェに集まった人たちを観察していると、こうした編み物の魅力と「集う」ことが優れた相性を示していることに気づく。手を動かして編み物をしていると、初対面でも会話が弾み、参加者はすぐに打ち解ける。会話に仕事や家庭の話は出てこない。作品について情報交換したり、たわいもない話をしたりしながら気持ちを通わせる。だからみんなくつろぎ、穏やかな表情をしている。ニットカフェは欲得や上手下手を意識することなくつき合える「溜り場」なのである。

共通の趣味や愉しみで集う、体温の感じられる交流には、無心になれることでの精神の浄化作用がある。現代生活者が求めるそういった交流の溜り場と飲食業態が結びつき、新たな商機をもたらしている。この時代に何が求められているかを探るうえでの考えさせられる動きである。





 

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