ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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1.31.2011
民藝に触発されて〜日本の暮らしの中で残っていくモノを

振り返ってみると、今世紀に入ったあたりからだが、日本の風土に心を寄せる動きが徐々に高まりを見せてきている。そのあらわれのひとつが民藝への関心である。民藝とは「職人の手仕事によるその土地の民衆のための日常生活用品・用具」であり、焼き物、染織、漆器、木竹工などの民藝品に「用の美」を見出し、活用する運動が民藝運動である。これは1926年に柳宗悦が中心になり、陶芸家の河井寛次郎、濱田庄司、富本憲吉らによって提唱された日本独自の美術運動である。このごろ柳宗悦の著書をはじめとする民藝に関する書を読み、民藝に多大な興味と共感を抱く生活者も出てきており、その具体的なあらわれとして、自分の目と足による民藝探索が旅の新しいテーマになってきている。

この民藝運動は一方で現代のクリエイターたちを触発し、風土と現代デザインが折り合いをつけるモノを日々の暮らしの中で尊重していく機運となって広がってきている。その事例として注目したいのが、2003年に東京初として登場したデザイナーホテル「クラスカ」(東京・目黒)の活動である。このホテルはデザインに関心の高い人たちによく知られており、ここにはタタミ敷きの和室もあるように、日本の生活美を追求している点に特徴がある。美的価値やデザイン性の高さを日本の伝統のなかに見出すと言ったらいいだろう。この姿勢はホテルという枠に納まることなく、日本のクラフトマンシップをテーマにする商品開発や直営業態の展開にも及んでいる。

渋谷パルコの「クラスカ・ギャラリー&ショップ・ドー」。

渋谷パルコ地階に出店している「クラスカ・ギャラリー&ショップ・ドー」はそのひとつで、小規模だが、日本の風土に根ざした生活用品、生活雑貨が多彩に集められている。山口県の堀越窯で焼いたすり鉢や九谷焼の器、箸と箸袋などのテーブルアイテム、オーガニックコットンのオリジナルタオル、オーガニックコットンのガーゼによるオリジナルショール、新潟で活動するクリエイターが手掛ける風呂敷、因州和紙の便箋封筒といったステーショナリー、持ち手が丸い棒状になっている房総の民藝品である竹うちわ、さらには明治25年創業の日本の石鹸専業メーカーである玉の肌石鹸の石鹸といったものも。展開商品はカテゴリーを超えて多岐にわたる。その品揃えは日本の伝統工芸的要素とモダンなデザイン性が握手するところに惹きつける要素があり、店は鑑賞の楽しみもあるギャラリーの印象を持つ。こうして店全体から知的好奇心を刺激する文化のニオイが立ち上ってくる。

衣服、家具、家庭用品、雑貨、ステーショナリー、食品まで、日本の職人の技と優れたデザイン性を兼ね備えるモノが生活者を刺激している。地域に伝承する民藝品や作家物を含む日本を切り口にした生活雑貨が関心を集めている。そんな動きが広がりつつあることに注目したい。






 

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