ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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1.1.2013
オープンエアの環境に惹かれる

近年の動きを俯瞰すると、文明的快適環境を究めるほどに、日々の天候が織り成す環境、即ちオープンエアの環境への思いが高まっている。エアコンで調整された空間よりも、皮膚や体に直接何かを語りかけ、環境と会話する空間が心地よいのである。アメリカでは大リーグの球場にもこの動きを反映する注目すべきトレンドが見られる。つまり、これまでの屋根付きのドーム球場は天然芝で開閉式へと進展し、今やいわゆるドーム球場は30球場中、ひとつだけになっている。そこには、天候に左右されない環境は便利だが、心地よいのはオープンエアの環境とする感じ方があり、興業ビジネスの効率性よりもそのことが尊重されていることが興味深い。

オープンエアを心地よいとする感性は、寒い日、暑い日、雨の日がある東京でも広がり、施設やスポットの開発に新たな動きをもたらしている。例えば、JR代々木駅近くにある「代々木ヴィレッジ」。ここは小さな植物園の趣を持つ、公園を主役にする商業界隈で、ここに身を置いてみると、「都会の中のリフレッシュの場」であることを実感する。あるいは既に人気スポットになっているものとしては丸の内ブリックスクエアがある。噴水のある小さな公園を取り込み、丸の内仲通りと融合するこの商業施設は、近隣のビジネスピープルに憩いの場として愛される存在になると同時に、洗練と居心地のよさが共存するその環境は遠方からも人々を引き寄せる。ここでの体験はリピート利用へと発展するのである。これは百貨店の屋上を再開発していくうえでの視点にもなろう。

よくできた「都会の中のリフレッシュの場」の新事例として、昨春開業した東急プラザ表参道原宿を見逃せない。このSC(ショッピングセンター)は、地階から2階まで3つのフロアで構成する大型路面店を周りに配し、エスカレーターで上がった3階から5階のフロアに通常のSCのように多様な店舗を集積するという、大胆なスタイルをとっている点が注目される。そのことは外観にあらわれており、表参道と明治通りの交差点にあるこのSCを交差点の反対側から眺めてみると、実に奇妙な形状をしていることに驚くのである。

東急プラザ表参道原宿。 「おもはらの森」。奥がスターバックス。

なかでも目を引くのが、建物に林がのっているような木立の見える風景。それが表参道の名物である欅並木と連続性を保つうえでいい効果を発揮しているのである。高さ制限のある地域に配慮した景観作りの姿勢を感じるのであるが、林のように見えるのは6階の屋上に設けられた、「おもはらの森」と呼ぶ広場なのである。ここには四季を表現する樹木や50種類を超える野草が植えられており、魅力的な公園が創出されているのである。それはすり鉢状に構成され、傾斜を利用して設けられた階段状のスペースで思い思いに休むことができると同時に、63脚もの椅子が配置されている。この6階にはスターバックスがあり、ここで買い求めたドリンクを片手に過ごすというのがひとつの利用形態になっている。そして、この公園はスターバックスともども朝8時半から利用できるのである。

「おもはらの森」はそこからの原宿界隈の眺めということでも魅力がある。東急プラザ表参道原宿で集客に貢献しているのが、世界一美味しい朝食を作ることで評判のレストラン「ビルズ」であり、マンガをテーマにする雑貨店の「トーキョーズ・トーキョー」といったここだけの人気店であるが、心地よく過ごせるオープンエアの環境もリピーターを創るという視点からの名所となっていると言えるだろう。なお、このSCには「おもはらの森」以外にもオープンエアのテラス空間を3階、5階、7階にも設けており、ここを特徴づける要素になっている。

オープンエアの環境だからこそ楽しいし、散歩気分で出かけてみたくなる。そんな気持ちにさせて人々を惹きつけている注目のスポットが、広場や広い通りや神社の境内などで開催される露天市である。ファーマーズマーケット、手作り市やクラフトマーケット、古本市、骨董市・・・・時期になればクリスマスマーケットも。勿論、露天市が人気になる背景には様々な要因があるが、屋台ひとつで表現された固有の世界や、新しい才能や掘り出し物との出会いをオープンエアの中で楽しめるからこそ面白い。このように露天市の魅力は今や環境面からも考察できるのである。

オープンな環境が生活者の関心を集め、よくできた環境は利用頻度を高め、リピーターを創造することができる。背後には「心地よさ」についての尺度の変化があるわけだが、生活者はどこかで深呼吸のできる空間を望んでいると言えるだろう。






 

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