ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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9.10.2008
副都心線考〜『ファッション観光路線』として沿線発展の可能性

東京の地下鉄・副都心線が開業して3ヶ月になります。池袋と渋谷の間をほぼ明治通りの下を走る形で結ぶこの路線、途中、新宿3丁目に駅ができることから、池袋や渋谷の百貨店から新宿3丁目駅に直結する伊勢丹新宿店や高島屋新宿店に客が流れるだろうと言われたものです。なかでも特に記憶に新しいのが、メディア(小売業界等の専門紙誌も含んで)でも盛んに取り上げられた「池袋素通り」論と「伊勢丹一人勝ち」論です。そのなかにはこの新路線を『伊勢丹新線』と言い切った例もありましたが、こうした想像とも予想とも予測とも仮説ともつかない話に接して思ったのは、机の上で考えるとこういうことになってしまうのだろうな、ということです。

私は伊勢丹新宿店の存在の大きさにつながる特質は、この店が『日本のファッションの観光地』とできる点にあるととらえています。特についこの前までの「シンデレラシティ」、新しくは「イセタン・ガール」は言わばそのシンボルとなる名所です。副都心線は『観光地』へのアクセス手段を増やす効果はあるでしょうが、池袋の百貨店から客を奪うとなると容易なことではありません。百貨店顧客が現在の店から別の店に「つき合い」を移籍するには相当の理由が必要であり、新路線の誕生は、それによって現在の店が出かけるうえで不便にでもならない限り、相当の理由にはなりません。顧客が「つき合い」の本籍を変えるというのは簡単ではありません。机の上で考えると簡単なことなのですが・・・・。

新路線が通り、駅が出来、気軽な途中下車を誘う改札口に近いところにエントランスを構えることができれば、確実にものにできる重要な買い物が地下の食料品フロアでの手土産の調達です。これは「つき合い」の本籍となる百貨店がどこであろうと、便利ゆえになされる買い物です。つまり、常顧客としての買い物はしませんが(本籍は変えない)、どこでしても同じような立ち寄り型の買い物はするということで、これがいわゆる駅立地の強みなのです。新宿3丁目の2つの百貨店はこの点での利用は間違いなく増えるでしょうね。実際、伊勢丹は新線が開業する既に1年前に、地下鉄改札口に最も近い食料品フロアの一画に「手土産需要の獲得」の意図を感じる和菓子のニューゾーンを開発しています。また、渋谷駅で観察してみると、東急東横店の東横のれん街に入店する客数も増えているように感じます。新路線がやはり手土産を中心に立ち寄り型の食料品の買い物をもたらしていると考えられます。

このように新路線は駅立地という特性をもたらす、あるいはそれを強化する効果をもたらすことで立ち寄り型の買い物の獲得に貢献してくれるのですが、一般的に見て、新路線の開業はその路線の駅すべてに賑わいをもたらすものです。そこに一定レベルの商業界隈が存在する限り素通りなど起こり得ません。ましてや「池袋素通り」説などはあり得ないわけで、副都心線はむしろ池袋にも人がこれまで以上に集まるということでの賑わいをもたらしてくれるはずです。それにつけても、副都心線開業にあたってこんな当たり前の見方がひとつも見られなかったのはなぜなのか、不思議でなりません。消費や小売にまつわる問題をフィールドワークを手法に考えている立場からすると、副都心線開業の影響についての見方はほとんどが的外れなものであると思います。

ところで、副都心線がもたらす影響ということで念頭に置いておきたいことがひとつあります。それは将来的に見て、この路線が『ファッション観光路線』としての明快な性格を持ち、沿線の再開発の有力な方向性になるだろうということです。考えてみてください。今既に新宿3丁目には『日本のファッションの観光地』である伊勢丹があり、その地下2階には「イセタン・ガール」という名所があります。明治神宮前にはラフォーレ原宿があり、明治通りをはじめ、カッティングエッジ(最先端)ということでは日本一のストリートが何本も走ります。渋谷はこの路線の駅出口が、原宿に向かう明治通りの入り口にあたる宮下公園そばにつながっており、渋谷の街の中でもセンター街方面の『若者の盛り場』的雰囲気とは異なる、洗練度の高さが魅力のエリアが広がります。そしてこの副都心線が東横線に乗り入れるようになると、高感度なモノとの出会いでは頂点に立つ代官山があり、女性を惹きつけ、楽しませるフェミニンでロマンティックな感性を発信する店の集積では他に類を見ない自由が丘があります。

既に出来上がった街やスポットを並べただけでも『ファッション観光路線』としての成立性が見えてきます。そしてこれに従えば、池袋の西武百貨店や東武百貨店、さらに新宿3丁目に立地するマルイには、この点を踏まえたファッション名所となるスポット開発が期待されるのです。となれば、春夏秋冬、シーズンの初めに「旬のホットトレンド」をモデルがウォーキングして見せるファッションショウ電車、名付けて『メトロ・ランウェイ』を自由が丘と池袋の間に走らせみるのも面白いでしょうね。と、好き勝手なことを書きましたが、副都心線にはそんな可能性があることを認識したいのです。





 

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