ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
■ツタガワ・トレンド・リサーチについて

11.13.2011
「3.11」とトレンドとの関係を考える

生き方というものは、通常、生活者自身の中にある個人的な欲求や意志がリードして形成されていくが、時々、外部の出来事がもたらす制約を与件として受け容れ、こうした制約がリードして形成されていくこともある。外部の出来事とは、戦争、政治や経済環境の激変、天変地異などがそうである。大衆消費社会が到来してからの過去を振り返ると、1973年のオイルショックがその最初の事例ではないかと思う。弊社が発行していた当時のレポートを読み返すと、「個人の欲求を抑え、新たな消費姿勢を持つ時代になる」とあるが、思い起こしてみると、資源節約という社会的課題が個人的な消費意識に影響を与えた最初の出来事であった。

最近では2008年9月のリーマン・ショックがその出来事に相当するのであり、ここから制約を受けての消費抑制の姿勢が様々な情況を生み出してきたことは記憶に新しい。ところで、こうした外部の出来事による制約が真新しいトレンドを生み出すのかと言えば、勿論、そういうものもあるのだが、そればかりではない。見逃してはならないのは、この種の制約がそれまで脇役的存在であったトレンドに浮揚力を与えることだ。平易な言い方をすると、目立たないが徐々に力をつけ始めたトレンドが外部の出来事をきっかけに一気に大きな勢力になるのである。これを世の中はあたかも真新しく出てきた動きのように取り上げるのであるが、ことマーケッターについて言えばこの程度の眼力では失格である。

リーマン・ショック以後を振り返ってみると、例えば、家で飲むことや弁当を作ることが新たな節約手段としてとらえられたが、いずれの動きも目立たないが既にそれ以前から出てきていたものである。弊社ではそれをドメスティック志向として考察してきたのであり、リーマン・ショックから出てきた制約である節約姿勢がドメスティック志向というトレンドの川幅を広げたと見ることができるのである。考えてみれば、リーマン・ショックからは真新しいトレンドは生まれてきていない。消費抑制につながる動きはすべてそれ以前から見られるものであった。これはトレンドウォッチャーとして自信を持って言えることである。

では、「3.11」はどうか。ここには真新しいものと、既存の動きの勢力拡大、この2種類の動きが読める。まず、真新しいもの、それは「安心」を希求することがマインドになり、それは少なくとも来年へと持続すること。「3.11」は、余震や誘発地震、電力不足、放射性物質による汚染と予測を超えた広がりという、当面解消のメドが見えない不安をもたらしたことで特筆される。不安は安心を希求するマインドをもたらし、マインドは生活姿勢・消費姿勢の基盤になるものとして様々な動きを生み出す。そこで、例えば、安心を家族の「絆」に求める、あるいは、最も安心できる場として家庭を見直し、そこから「コクーニング(家庭第一主義)」といった、「3.11」以前に既に芽生えてきていた動きが浮上してくるのである。

こうしてみると、「3.11」も、それ以前からのトレンドの川幅を広げる方向で作用していると言える。そのなかでも注目しておきたいトレンドのキーワードが、「サスティナビリティ」「『絆』または『縁』」「エブリデイ・イン・スタイル」「風土・土着性」で、これらは「3.11」後、さらに川幅を広げる流れになっているのである。

発端となる源泉とそこからの流れを、歳月を追って整理し、把握すること。トレンドウォッチングで最も重要なことを今年は再認識させられるのである。





 

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