ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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1.1.2007
ベビーカーを押す顧客をもてなす〜快適な環境作りの視点

特に郊外立地のSCや百貨店で年を追って増加し、問題化してきていると実感するのがベビーカーを押して歩く乳幼児連れの母親たちである。一般客にとってベビーカーが多いと通路を歩くのにも神経を使い、ゆったりとした気分で歩くことができない。その結果として「買い物がしづらい店」と感じさせ、来館を控えさせ、長時間滞留してゆったりと買い物する気持ちを減退させ、回遊を阻害する要因につながる。しかしその一方で乳幼児連れが無視できない存在であることも認めねばならない。特にその商業施設にとって足元商圏に暮らす若い家庭は、あと5年、10年経てば重要な顧客に成長してくれるわけで、そのためにも早いうちから来館を習慣化してもらうことには意味がある。そこで必要になるのは、乳幼児連れを歓待しつつ、そうではない来館客にとっても心地よく過ごせる店作り、環境作りとは何かを考えることである。

そうしたなかで、最近になってSCで見られるようになっている興味深い事例が、テナント店内の商品棚の間の通路を、従来に比べかなり広く取るという方法である。そのひとつがラゾーナ川崎に出店したソニープラザに見られるもの。ここでは店内通路が従来のソニープラザよりもかなり広く取ってある。売場面積約330・の店舗に2つある出入り口を「コ」の字型に結ぶ主要導線については幅1.5m、その他の通路についても1.3mという広さで、主要導線ではベビーカーが横に3台並んで歩けるほどのゆとりがある。そんなわけでこの店では、店内でベビーカーどうしがゆったりとすれ違うことができ、また、店内通路にベビーカーを無造作に放置したまま商品選びに夢中になっているような若い母親がいても、他の客はほとんど何のストレスも感じることなく店内をスムースに回遊しながら買い物を楽しむことができる。

「ソニープラザ」ラゾーナ川崎店。

同様の施策はららぽーと豊洲に出店した紀伊国屋書店にも見ることができる。若い家族が多いという商圏特性も踏まえてのことだろうが、1,900・に及ぶ店内は書架の間の通路幅を通常の1.3倍と、きわめて広く取ってある。これならベビーカーを押す乳幼児連れでの客が混在しても回遊スペースに余裕があり、互いにストレスを感じることはない。ちなみにこの店では、書店では一般的な商品陳列方法である「平積み」をごく一部にとどめることでこの通路幅を実現しているのだが、売り上げ作りに有効な販売手法と客の心地よい回遊促進を秤にかけた結果がどう出るのか、これは大変興味深いトライである。

ベビーカーを押す乳幼児連れの来店客をどうもてなし、同時に一般の来店客も満足する環境をどう作り、維持していくのか。このことには今後いろいろな施策、対策が出てくるだろうが、店内(売場内)通路を幅広く取ることは間違いなくこのことへの有効な施策になる。通路を広げる分、スペース効率の低下が気になるが、心地よく回遊できることで購買頻度を向上させることができること、さらにはこれまで入店を遠慮していたベビーカー来館者を新たな顧客として取り込めることなどによって、むしろ逆に効率を上げることを期待できるのではないか。

ともあれ、ベビーカーを押す来店客にとって快適な環境を作ることが、結果として一般来店客にとってもストレスのない、快適な環境を作ることにつながる。この環境作りの視点は、そっくりそのまま百貨店のベビー子供服&オモチャのフロアにも応用できるのではなかろうか。





 

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