ニューヨークと東京、2つの先行指標都市でトレンド発掘を続けるツタガワ・アンド・アソシエーツがお届けする、小売りに携わるマーケッターのための考察録
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4.10.2007
「アミューズ」で惹きつけ、楽しませる〜レストランにおけるニュートレンド

ここ数年のことだろうか、主に高級を自認するフランス料理のレストランで、コース料理が始まる前に「アミューズ・グール」(アミューズ・ブーシュ、単にアミューズとも言う)と呼ばれる『番外編料理』の提供を受けることが多くなってきた。これは前菜の前に食前酒と共につまむ感覚で提供されるもので、日本料理の突き出しに性格が似ているが、こちらの場合はメニューには記載されていないことでも明らかなように、レストラン側からの無料サービス料理というのが基本である。

客の側からすれば、予期しない料理が出てくるわけだから、アミューズはたいていの場合、驚きとなる。また、多くが数品のミニポーションの料理で構成されており、店によってはボードにアーティスティックにレイアウトされ、個々の料理のミニチュアの造形物のような美的様相と合わせて目を楽しませてくれる。なかにはナイフ、フォークを使う例もあるが、多くは指で口に運ぶフィンガーフードである。勿論、視覚だけではなく、味覚も存分に楽しませてくれる。このように、アミューズはその店のシェフからの「ご挨拶」と受け止めることもできるし、これから始まる料理への期待を高める、創作性を語る「まえがき」と感じ取ることもできる。

アミューズで最も驚きと感動を与えてくれる店として話題になっているのが、パリの三ツ星グランメゾン、ピエール・ガニェールが一昨年の11月に青山に開業した「ピエール・ガニェール・ア・東京」である。写真はランチコース(7,350円)が始まる前に提供されたアミューズで、それらは「小さく切ってポワレしたキンメ鯛とジャガイモのピュレ」「パルメザンチーズとイベリコ豚のハム入りのスープ」「蟹とリンゴ、牛乳とグレープフルーツのゼリー」「カリフラワーのババロワ」「生の牛肉で松の実を包んだ一品」の5品で構成されている。見た目の美しさ、素材の取り合わせの意外性、見えない部分にまで手をかける情熱など、一品一品が感動を与えてくれる。

「ピエール・ガニェール・ア・東京」のアミューズ

予定していないものが不意に出てきた時の驚きと、高い創造性があることでの感動。その驚きと感動は客を興奮させ、その興奮がその客をリピーターにし、あるいはクチコミやブログを通して店の評判を創り上げていく。そう考えてみるとアミューズを出すレストランが増えていくのもよくわかる。実際、アミューズの提供は高級であるかどうかを問わず広がっており、コースではなくアラカルトを注文しても提供される例も出てきている。創造の才を売り物にするレストランにおける次なるホットトレンドは間違いなく「独自のアミューズの企画と提供」にあると言える。このことは生活者に「アミューズ探検」という新たな楽しみをもたらす。同時に、アミューズで競い合うという新たな状況が到来することを予感させる。





 

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